プレインシートとのお別れ

先日、宇宙関連ボランティア活動で、ご一緒した方が亡くなられた。実に50年間、オーディオ、コイル、撮像管、真空管、高周波高出力装置、トランジスタ、TTL-IC、MOS-IC、マイコン、インバーターとともに歩んできた、まさに突出した技術者であられた。

真に技術者の鏡であると、あらたのは思う。

昨年お知り合いになり、一緒にJAXA主催の宇宙教育リーダー講座を受講し、同じ日に宇宙教育リーダーになった同志でもある。

あらたのは、人工知能には疎い。ITで飯を食っていながら、本来はお絵描きで楽して暮らしたいという、はなはだけしからぬ考えの、中途半端な技術者であるから、生活の上でも結果は歴然である。

しかし、この方の仕事ぶりは全く私とは質も量も異なる。まさに驚異的なスピードで50年を走り通した人だったと思う。

酒井貞四郎氏は、独自のオペコードとオペランドで、プレインシートというマークシートに、縦横高さでマトリックスを構成し、プログラムを完成するという方法を1988年には実機として完成させていた事だけは、ここに書き残しておきたい。

アメリカには登録のパテントサイトに掲載がある。ここでの資料は1992年となっている。

オペコードは僅か6種類であり、立体的にシートを記入・構成する事で、作業目的を達成できるようになっていた。もちろんこれは、考え方自体、非ノイマンになる。オペコードとオペランドの改良・改善は、未来に誰かがやるだろう。8080から始まったCPUが、その後多彩な変遷を見せた事と同じで、元になったCPUの開発者は偉大だ。

シートにプログラムを書くプログラマが、ノイマン型に同化してしまっているので、なかなか並行で、しかも自力で書くのは難しいのも事実だが、簡単なものは、慣れれば誰にでも書ける。これが返ってこのプレインシート方式の方向の正しさを証明していると思えた。

当然、プレインシートは、X-Y方向にセルを持ち、そこにオペコード、オペランドを手で書き込むのだが、この枚数が2枚以上になると、厚みとしてのZの方向が生まれる。あらたのは、見た瞬間、これはシリコンノイロンの発祥だと思った。
絵描きとしての直感しかなかったが、この方式を2008年2月に、酒井氏ご本人から説明を受けたとき、背筋がゾッとしたことをいまでも思い出す。

シートのセル、ひとつひとつをチップ化して、集積したとき何が起こるのか?あらたのは未来にそれを見てみたい。この知的な発想を、プロジェクトが大きくなりすぎるからといって、膨大な費用がかかるからと言って、どの国もこれを取り上げなかったのは、世界の損失である。

ご存知の通り、現在のコンピューターと名の付くマシンは、全て演算部と記憶部が分かれている。そして記憶部には、価格の比較的安いダイナミックRAMが使われ、そこには、コンデンサの働きで保たれる二進法の0と1しか記憶されない。また、スタティックRAMでも価格の違いだけで記録される情報が0と1であることに大差ない。

苦学してこられた半生も、短いお付き合いだったが知ることが出来た。

酒井氏は一人の技術者として、決して豊富な開発費に恵まれたとはいえないと、あらたのは考える。だから氏はコンパイルという手法に頼らざるを得なかった。

結局プレイン独自のシートセルを二進法に置き換えてから実行していた。コンパイラだけでも40人年を費やしたという。

氏とのお付き合いの流れ上、膨大な68040のマシン語ダンプとルーチン群を数ヶ月お預かりしたが、6cmはあろうかという11インチ用紙でのプリントアウトで、100冊近いサブルーチン群のファイルを見るに付け、実に40人年の費用をかけたという事にも合点が行った。

上記のセルを、仮にひとつひとつチップとしてシリコンの上に実現すると、脳細胞と同じ数兆個を実験開発など出来ないからだ。

あらたのが知る限り、現在の最先端のロボットや、世界で研究され続けている、人工知能、第5世代コンピューターなどは、数多くの成果を上げている事は認めるけれど、どのようにコード化しても、最終的には0と1の二進法になってワイヤー上を走っていると、あらたのは理解している。この理解にもし間違いがあれば、誰かご指摘いただければと思う。

かなり過去に、パナソニックが、3値論理でチップの実験開発を行っているという記事をトランジスタ技術で見たことがある。素人に何がわかると怒られそうだが、私はこの試みはうまくいかないと、当時一読して直感したけれど。

酒井貞四郎氏の人口知能へのアプローチは正しかったと思うし、彼が世界で最初にこれを考え付いたことだけはここに書き記しておきたい。反論のある方は是非、問い合わせフォームからご連絡願いたい。あらたのが責任を持って、可能な限り検証する。

ご本人の正確な着想の日付は後日書き添えるが、証拠資料もあり、当時のままである。この方式やこれをまねたものは、あらたのが見つけ次第、このブログで指摘することとし、ここに記憶をとどめるものである。

酒井氏とのお別れとともに、この記事をもって、プレインシート方式との、しばしのお別れのときである。10年にも思えた、ここ10ヶ月のお付き合いだった。

未来に生まれるであろうシリコンの脳を持った人工知能との出会いに期待すると同時に、未来にまたどこかで、酒井先生とお目見えすることを心から願っている。

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